セラピストにむけた情報発信



多様性練習の効果に関わる脳部位:Kantak et al. 2011




2012年4月20日

2か月ほど前に,多様性練習(variable practice)にする話題を紹介しました.今回は,こうした効果を支える脳部位について検討した論文をご紹介します.

Kantak SS et al. Transfer of motor learning engages specific neural substrates during motor memory consolidation dependent on the practice structure. J mot behav 43, 499-507, 2011

実験ではレバーを特定の振幅で動かすという,運動学習の領域で頻繁に用いられる課題を用いて,多様性練習とコンスタント練習(constant practice)の効果を検討しました.

効果に関わる脳部位を検討するため,1秒間に1回の割合(すなわち1Hz)で特定の脳部位に対してTMSを連続的に呈示し,一時的にその活動を抑制するという方法を用いました.著者らは運動学習に関わる脳部位として,一次運動野(M1)と,背側前頭前野に着目し,TMSを連続呈示しました.

その結果,背側l前頭前野にTMSを連続呈示してその活動を抑制すると,多様性練習がもたらす転移の効果が消失することがわかりました.さらに,一次運動野にTMSを連続呈示してその活動を抑制すると,コンスタント練習がもたらす転移の効果が消失することがわかりました.

TMSを用いた方法論を多様性練習の効果に適用して,比較的クリアーなインパクトを出したことは,非常に有意義な成果です.実際,この論文の1年前に,多様性練習がもたらす“保持の効果”に関わる脳部位について報告した論文は,Nature Neuroscienceという権威ある雑誌に掲載されています.今回の論文では,多様性練習がもたらす保持の効果に関わる脳部位が,“転移の効果”にも関わったことを証明したことが,1年前と違った新しい成果となります.

背側前頭前野が,多様性練習がもたらす学習効果に関与する理由として,著者らは以下のように説明しています.

多様性練習の場合,毎試行異なる運動計画をする必要があります.このため,各試行をおこなうに当たっては,ワーキングメモリー内にある前の試行の運動計画を消去する必要があります.その結果,練習中に同じ試行を何度も繰り返したとしても,毎試行それを新しい試行として処理することになります.こうしたワーキングメモリーにおける情報処理にdorsolateral前頭前野が関わることが,多様性練習と前頭前野の関係性を強めることになる,と著者らは説明しています.


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